オリジナル版画とは〜アール・ヌーヴォーのポスターを蒐集するには〜その3【ブログ連載第5回】

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    連載第5回:オリジナル版画とは〜アール・ヌーヴォーのポスターを蒐集するには〜その3

     

    このブログ連載はアルフォンス・ミュシャやトゥールーズ・ロートレックを含むアール・ヌーヴォーの有名な作品をポスターや版画を中心に絵と解説で紹介やアール・ヌーヴォーの大まかな歴史やポスター製法の用語(例えばリトグラフとは)などを更新いたします。アール・ヌーヴォーのポスター傑作集連載の第5回です。

     

    アルフォンス・ミュシャ エスタンプ・モデルヌ「サロメ」

     

    前回の連載までで

    1:ポスターはロートレックやミュシャの原画の複製でしょうか?

    2:リトグラフとは?複製のこと?

    扱ってきましたが、今回は特に勘違いの多い

    3:直筆のサインとエディションが必ず入っている

    についてです。このことは題の「オリジナル版画とは」にも深く関係し、とても大事なことです。

    リトグラフなどの版画が美術品や芸術として認識されるようになったのは19世紀に入りシェレやロートレックなどの活躍によります。それ以前の版画にもレンブラントのエッチング(銅版画)など優れた作品は多々ありますが、総じて芸術としての地位は低いものでした。しかし、ジョン・ラスキンの「芸術に大・小の区別はない」という考えやその考えに触発されたアーツアンドクラフ運動、さらにアール・ヌーヴォーやワグナーの総合芸術の考えは、絵画・彫刻・建築いわゆる純粋芸術と工芸芸術や日用芸術や版画芸術が含まれる応用芸術の芸術的地位の向上に努めました。

     

    そのため今日の版画には画家の肉筆のサインが入っていることが一般的ですが、この肉筆のサインは1880年頃にパリやロンドンで活躍したジェームズ・マクニール・ホイッスラーが作品に入れたのが始まりと言われ、版画が芸術と認め始められた19世紀末のころは決して一般的ではありませんでした。

     

    そのためロートレックやミュシャの作品などは、作品の中にサインが描かれ印刷されているのが一般的で、画家自身によるサインや部数(○○/100など)が描かれているんのはほんの一部のコレクター向けの版画を除きほとんどありません。

    したがって

    3:直筆のサインとエディションが必ず入っている

    は間違いなので注意が必要です。もちろん当時から肉筆サインをいれる習慣をもつ画家、たとえばムンクなどもいます。

     

    これは当時、まだリトグラフの複製が難しかったことや、版画制作の過程に画家が直接かかわっていたことも大いに関係しています。

    しかし版画が芸術と認められ人気が出てくるのと写真製版などの技術の進歩により複製(コピー)が大量に製作されるようになり、第2次世界大戦後にはジョルジュ・ブラックなど著名な画家自らが複製を許し、その上部数と肉筆のサインを入れる事案もあらわれます。

     

    特に複製に画家の肉筆のサインが入った作品をオリジナルと呼んでいいのかは当時から論議の的となり、版画をオリジナル版画「グラヴェール」と複製やコピー「エスタンプ」と区別しようとする動きが現れます。そして1960年ウィーンで行われた第3回国際造形芸術会議においてオリジナル版画の基準5か条が規定されます。ここで初めて版画には肉筆のサインを入れることが規定されました(2条)。その後アメリカの提案やいくつかの修正がはいり、1964年にフランスにて、「オリジナル版画とは、画家自身が創作し製作した刷りものをいう」と定義されています。

     

    しかしここで一つ注意しなくてはいけないのが皮肉にもこの流れを受け、版画という意味であったエスタンプが複製やコピーという意味で用いられるようになったことです。19世紀末にはエスタンプに複製の意味はなくロートレックやミュシャもエスタンプ・オリジンやエスタンプ・モデルヌなどで版画を制作しており、ここでのエスタンプ(版画)はオリジナル版画になります。

     

    当時のポスターや版画の種類はエスタンプ(版画)アフィシュ(広告ポスター)装飾パネル(広告物でない観賞用のポスター)書籍や挿絵、絵はがきに大別され、次回の連載ではこの5つの分野の代表的な作品を取り上げます。

     


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